2021/01/05
2020年度日本水産工学会シンポジウム概要報告
2020年度日本水産工学会シンポジウム「これからの養殖施設を考える」が令和2年12月19日に,会場(水産研究・教育機構 横浜庁舎)とリモート参加で開催されました。会場参加はコロナ感染対策のため密を避け30人限定とし,リモート参加は160人で,合計190人でした。北海道から沖縄より参加があり,全国の様々な場所から同時に情報を共有できるシンポジウムとなりました。
はじめに,本学会 木村会長から挨拶があり,天然水産資源の資源管理の強化が国の施策に反映される中,すぐには漁獲の回復は期待しにくい状況が予想されることから,養殖の重要性は益々高まっていくものと考えられこと,養殖業を取り巻く環境を俯瞰すると,特に,養殖施設は従来より大きな変化が無く,周囲の環境に負荷を与えるとともに外囲の環境変化の影響を受けやすい等の問題を抱えており,水産工学的な見地から養殖施設を見直すことの重要性が示されました。
以下に,各講演内容を紹介します。
日向野氏からは,沿岸養殖の問題点として,赤潮等による損失,飼料確保,国際競争,経済性低下,さらに水温上昇や台風の強大化によるリスクが挙げられました。赤潮対策の紹介や今後のIT化,AI化,漁具・漁網材料の開発の必要性,水産工学的観点では,養殖施設や係留方法の改良,廃棄物量の削減や複合型養殖施設構想が示されました。
遠藤氏からは,陸上養殖システムの基本構成の説明と魚の養殖の排出物による野菜の水耕栽培(アクアポニックス)が紹介されました。新たな取り組みとして,生産管理の簡便化,独自性の付与及び販売流通との連結,既存施設,廃エネルギー及び廃棄物の利用と連携について解説されました。
北澤氏からは,沖合養殖について紹介されました。1980年代後半から海洋牧場,沖合養殖,大型浮沈式生簀が開発され,2000年代には給餌ブイ,洋上プラットフォーム,沖合沈下式養殖,2010年代には自動沈下生簀が開発されました。今後の展望では給餌,生簀監視のシステム化が重要であることが説明されました。
桐原氏からは,ICTを利用した漁港内水域での魚類養殖とナマコ養殖について報告されました。魚類養殖では漁港で太陽光発電により遠隔給餌により総給餌量が減じたこと,漁港管理者が系統電源を提供することでコスト削減の可能性を示した。ナマコでは,空気だまりのあるブロックにより移動を阻止し,港内養殖が可能であることが報告されました。
斎藤氏からは,養殖業の見える化・データの資産化の報告がされました。IoTデバイス画像による魚の活性度のAI自動判別,スマート魚体測定,衛星情報による海洋データサービス,トレーサビリティ・ブランディングへの活用例が紹介された。定量的データにより養殖の経営安定化と省力化への工夫が報告されました。
廣田氏からは,ブリ養殖において,海外ニーズに安定的,効率的に供給可能な生産管理システムとして流通に直結するICTの活用が紹介されました。生産性向上にはデータのバラつきの抑制が必要で,取引への運用と履歴の連動が必要であり,実際の現場に即した運用管理を行うことが大切であることが報告されました。
寺田氏からは,養殖モニタリングシステムのトレンドでは,センサの多様化,水中データ通信,電池の高性能化,ネットワーク帯域拡張,多様化するオープンデータ,アプリケーションのクラウド化等が挙げられました。センサでは自動校正,多点計測,非接触,AIによる画像解析,時系列データ利用,センサのワンチップ化とデバイス間通信の標準化,多点分散計測が挙げられました。センサの活用事例には,植物プランクトンのセンシング,超音波による性別や疾病リスクの計測,振動検知による最適給餌等が紹介されました。
なお,講演いただいた内容は,学会誌の特集号として,後日,掲載することを予定しております。
綿貫 啓(企画担当理事),桑原 久実(副会長,シンポジウムコーディネーター)
木村会長の挨拶(オンライン)とコロナ感染症対策に配慮した会場風景
講演の状況
カテゴリ:日本水産工学会の行事
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